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それを踏まえれば、各国は簡単に軍を引く訳にはいなくなるのだ。
国と言うモノは、端から自国の利益の為にしか動かないものである。
国の正義は、あくまで“自国の正義”なのだ。
「仮設病棟から来たようだが、何処の国の者だ? 深夜の外出は決められた者以外許可されていない」
「えーと……」
レーヴェは言い淀んだ。
記憶があやふやな状態では、世界情勢どころか戦後の情勢すら理解出来ない。
戦後にこれほどの警備が健在なのは明らかに他国への牽制なのだが、それを理解しろと言うのは無理な相談だ。
「まて、そいつは俺の連れだ。気にするな」
唐突に背後から声がかかった。
そこには白いマントに身を固めた紫色の短髪の男性がいた。
顔にニヒルな笑顔が張り付いている。年は三十頭辺りだろうか。
襟元を軽く示す。
そこには籠と天秤の紋章がついていた。
「こっ……これは失礼を、どうぞお通りください」
警備兵が畏まって道を譲る。
男はレーヴェに軽くウインクすると、先に道を歩き出した。
レーヴェは少しばかり立ち止まっていたが、仕方なくその後に続く。
人気の少ない資材置場らしき場所まで行くと、男は気さくな笑顔で振り向いた。
「さて、深夜に何処に行く気かなお嬢ちゃん?」
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