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鬱蒼たる森の中は酷く静寂に包まれていた。
自然に付き物の、虫の声が皆無なのが気になる所だろう。
まるで生物全てが生き絶えたような、荒廃した気配が付き纏っている。
その森の奥底に、透明な球体が浮いていた。
その球体は液体らしく、絶えず流動を繰り返している。
その中に人の姿が見えた。
純白の特殊な甲冑に身を包んだ黒髪の少女。
まるで眠るように漂うその姿は、人魚と見間違う程の美貌を誇っている。
かつて半身を覆っていた、神の呪いも既に無い。
誰しもが見惚れる美しさは、何故かはかなげな印象がこびりついている。
空中に浮かぶ水の宮殿の下に、頭を抱えた黒い人影がうずくまっていた。
全身黒ずくめの身体からは、微かに黒い湯気のようなものが立ち上っている。
苦痛を堪えているように見えるが、実際は深く静かに深呼吸を繰り返していた。
(鎮まれ……鎮まれ……くそ!)
黒ずくめの少年――ガルンは心の中で言葉を反芻しながら、胸を抑えて立ち上がった。
大きく息を吐いて額の汗を拭う。
近場の岩に腰を降ろして深呼吸すると、ゆっくりと水球を見上げた。
そこには神誓王国メルテシオンの第四王女、パリキス・キラガ・メルテシオンの姿が見える。
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