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音響魔術が使えなければ、レーヴェは一般的な魔術師と何ら遜色無いレベルに陥る。
それでは、この先の旅には付いては行けないだろう。
「何とか返して貰える方法を……考え……よ……」
そう力無く呟くと、レーヴェは馴れない給仕仕事の疲れからか、深い眠りに一瞬で落ちていった。
◇
顔の上に人の気配を感じた。
何か邪な気配に、意識が一瞬で覚醒する。
見開いた目の先には、近づいて来るクェイガーの顔があった。
「……何をしようとしてるのかな?」
「おや? 目が醒めてしまったのかい。それは残念。眠り姫を起こすのは、王子のキスなんだがな~」
クェイガーはキスまで数センチと言う所で、渋々と倒した上体を戻した。
レーヴェはいそいそとシーツを手繰り寄せて壁際に移動する。
「さて、お寝坊姫。旅仕度だ。とっと起きたまえ」
クェイガーは満面の笑みを浮かべると、手にしたトーラスチェーンの塊を見せた。
「えっ?! それ、ボクのトーラスフルート! どうしたんだよ」
「勿論、宿屋の大家から買い戻したのさ」
驚くレーヴェを見て、クェイガーはウインクをして、トーラスの束をベットに置く。
「着替え終わったら、北にある雑貨屋に来てくれ。そこで備品を集めるからな~」
そう告げと、クェイガーはにこやかに部屋を退室した。
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