伍の焦点

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微妙な反応の二人を、レーヴェは不服そうに睨みつける。 長々と話した事を、しっかり聞いていたそぶりにはかなり見えない。 すると、クェイガーはいきなり上体を起こして声を上げて机を叩いた。 「思い出したぁぁー!」 衝撃で食器が落ちる。 室内に食器が次々に砕ける嫌な音が響いた。 「これは失敬」 と、老夫婦に何故か敬礼する。 何事も無かった顔で席に付くが、怒り顔の店主らしきハゲ頭の大男が早足に近づいて来る。 「あんたら五月蝿過ぎるぞ。払うもん払って、とっとと出ていきな」 魔神のような形相の店主を見ても、クェイガーも少年もどこ吹く風だ。 レーヴェが一人平謝りする。 お金を払おうとして、宿屋の壁を吹き飛ばした為に、有り金らしきモノを全て没収された事を思い出した。ちなみに貴金属と思われたトーラスチェーンも全て没収である。 「ボクは有り合わせがないよ。どちらかが払ってよ」 二人に訴えかけると、二人は不思議そうに顔を見合わせた。 「はっ! 俺は金なんか持ってねぇーよ」 「申し訳ないが、俺は端金は持たない主義だった気がする今日この頃」 レーヴェは絶句して固まった。 背後の店主が拳を小気味よく鳴らしている。「無銭飲食で、よくこの量を食べやがったな~オイ?」 青ざめたレーヴェは、引き攣った笑顔を何とか店主に向けるのが精一杯だった。
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