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「くらいやがれ! バニシングナックル!」
振り抜いた拳がシュードバッハに当たる寸前で停止する。
顔まで拳一つの距離。
しかし――それは距離にすれば絶望的な距離だ。
拳は顔まで届いていない。
「くそったれがぁー!! さっきから、うぜぇーんだよテメぇーは! 意地でも貫き通す!」
円城の憤怒の形相の絶叫が大地に響く。
シュードバッハは一瞬安堵してから顔を歪めた。
忘れていた何かを思い出し、その過ちに気付いたように表情が変化する。
その何かに気付いた時には遅かったのだろう。
シュードバッハはハンマーで殴られたように、豪快に後方に吹き飛んでいった。
「おっ?!」
転がっていく姿を円城は不思議そうに眺めてから、己の右拳を徐に眺めた。
その結果を引き起こした本人が、一番驚いているように見える。
「おっ……? あたったのか?」
ぶち抜いた手応えはあるが、殴った感覚は無い。
遥か先に仰向けに倒れたシュードバッハは、苦痛の呻き声を上げている。
その様子を見て、ガズンは辺りの状況に目を配った。
仲間二人は倒れ伏している。
本来は仲間をただ迎えに来ただけだ。
本番はこの先である。
こんな所で消耗戦を繰り広げる意味は無い。
“命が尽きる前に”やることは山積みだ。
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