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◇
近づく足音に反応して、痛みをこらえてレーヴェは立ち上がる。
目の前の偉丈夫。
ガズンと呼ばれた黒コートは、哀れむようにレーヴェを見つめた。
「……これを“黒き■鬼”用の切り札に■ようとしていたのか? 疑問が残るが……そ■でも貴重な戦力だ。黙ってついて来るならば、これ以上危害は加えん。納得行かないな■ば、武力で平伏させるまでだが……どちらを選ぶ?」
ガズンの言葉に、レーヴェは右手に持つトーラスチェーンを握りしめた。
この距離ではトーラスを回すより、明らかにガズンの拳の方が速い。
気づかれないように小声で魔法を唱える――そんなあからさまな行動は敵対行動の何物でもない。
立ち上がってはいるが、レーヴェの身体は満身創痍に近い。
元々、魔術師に肉弾戦など向いてはいないのだ。
せめて相手が平均的な武芸者ならば、奇を衒う行動をする意味もあるやもしれない。
しかし、相手は達人の域だ。
それも近接戦闘のプロフェッショナルだろう。
ここまで接近されては、魔術師に勝てる要素は見当たらない。
(それでも……)
レーヴェの瞳に意思の光りが宿る。
戦いを諦めない不屈の闘志。
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