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(ここで引いたら駄目だ! ここで怖がったら……ボクはまた、何時ものボクに戻ってしまう。記憶を無くして、あの闇の世界で縮こまるボクに!)
頭の中に記憶の断片が溢れかえる。
暗い洞窟で迫る幽冥獣の姿が。
青白い聖なる狼の姿が。
華のように輝く器が。
赤髪の青白い顔の女性が。
覚えの無い死の投影の数々。
されど、それを乗り越えなければ恐怖に飲み込まれる。
死は畏れるものだが、それに囚われては生きながら死んでいると同じだ。
(死ぬのを恐れて、立ち止まって自分を失うなら、死を覚悟して自分を勝ち取るために前に進む!)
レーヴェは腕を突き出した。
「アンフォールド【展開】!!」
防衛用に身体に備えた、有りったけの簡易障壁を展開する。
物理防御と魔法防御。
どちらも魔術障壁を突破された場合の保険に過ぎない。
威力はたかが知れているが、最速で発動出来る魔術はこれしかないのだ。
(一撃を防いで、トーラス呪詠式を使う!)
ゼロ距離からの魔術攻撃。
無駄だとしても、ここで諦める訳にはいかない。
それはレーヴェの決意の現れでもある。
抗う事を諦めたら、後は飼い犬に成り下がるしかない。
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