望まぬ過去 #3

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「哀れな」 ガズンがそう呟いた時には、いつの間にか正拳が心臓に触れていた。 完全なノーモーションからの一撃。 達人の域に達した者が使える、予備動作なしの無拍子打突。 初動さからの打撃予測を消すために、習練に修練を極めた者が放てる一撃である。 流麗過ぎる動きには無駄は皆無。 まさに近接戦闘のエキスパートの技と言えよう。 心臓打ちの一撃は衝撃を全身に波濤させ、身体を硬直させる。 第二撃に、相手の意識を完全に刈り取る一撃を放つ為のお膳立てだ。 殺すつもりなら、これに発勁を混ぜれば心臓破裂で即死である。 簡易防御魔術では威力の軽減は微々たるものだ。 終焉が見えた連携攻撃。 決まれば終わりの足音が一瞬で訪れる。 拳が胸に触れた刹那に、そう感じたレーヴェの意識が心臓が大きく波打った。 意識だけが一瞬で加速する。 体の中を鼓動が鐘を鳴らすように鳴り響く感覚。 気付けばレーヴェの身体から淡い黄色光が漏れだしていた。 拳を繰り出したガズンは大きく目を見開く。 拳に有り得ない手応えが伝わってきたからだ。
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