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だが、完璧なカウンターに見えるそれは、少年の身体を摺り抜けた。
驚くガズンの背で、静電気が散ったような微かな音が鳴る。
静電気の瞬き程の、刹那の間隙の移動歩法。
背後からの強烈な蹴りが放たれる。
大気をつんざく一撃は、されど先ほどの少年とガズンの立ち位置を入れ替えただけのように摺り抜けた。
驚くのは少年の番である。
「アク■ル・ビート【拍子加速】セカンド・ギア」
残像を残して移動したガズンは幻影のように少年の懐に入り込むと、両腕に必殺の一撃を込める。
両腕に硬気功を纏わせながらの諸手掌打。
鋼の一撃を打ち込んだ箇所から、内部破壊の発勁への加重打撃だ。
当たれば必倒必至の一撃が、少年の胸に当たる寸前だった。
横合いからしなやかな蹴りが伸びてきたのは。
予測外の衝撃がガズンの側頭部で炸裂する。
錐揉みしながら吹き飛ぶその姿を、周りの連中は唖然と見送った。
このハイスピードバトルは少年が現れてから数秒しか経っていない。
その間に、まさかもう一人現れるとは。
「大丈夫……蒼兄?」
そう呟いたのはガズンに上段蹴りを叩き込んだ、赤髪の少女だった。
「サンキューな、朱」
朱と呼ばれた少女は、にこやかに笑う。
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