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近くにいるだけで、常に心臓が止まりそうな恐怖を感じていた。
ただ――その人を寄せ付けない風貌の奥には、慈悲に似た奇妙な信頼感がある。
『記憶が無い事が逃げ道だと思うな。“今”の記憶はある筈だ。 目覚めてからの少ない記憶だけでもそれを活かせ。その間に得た知識、感覚、全てを総動員しろ。それ元に人を見極め、己の道を決めろ』
黒い剣士の言葉が鮮明に蘇った。
自分を支える指針。
意志を定める立脚点。
今の自分にあるそれは……。
「しけた顔してんなレーヴェ! てめぇーはそこでウジウジしていろ! こいつらは俺が全てぶっ飛ばす!!」
円城はいきり立つと拳を構えた。
黒コート達が等しく身構える。
彼等はネメシス復活をそのまま望むようだ。
それを見て道化師は腹を抱えて笑う仕種をした。
「馬鹿だ■君は……。傀儡が幾ら騒いだって、劇場の上で■か活躍できないんだよ? 人形は人形使いに逆らえない……」
「ごちゃごちゃうるせぇ! とりあえず一発てめぇーの顔に入れるぜ!!」
円城は雄叫びを上げながら猛然と道化師に襲い掛かる。
それを見て道化師の仮面の口が、仮面の端まで釣り上がったようだった。
指を軽く鳴らす。
まるで給仕人をただ呼ぶ為に、指を鳴らす客のように。
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