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大地を写す海の世界。
静寂と闇が似合う世界に、不似合いな少年の叫び声が鳴り響いた。
闘争と敵愾心の絶叫。
それは絶望の産声に等しい。
その声を聞きながらクェイガーは歯を食いしばった。
立ち向かう事すらままならない現実。
敵対行動は死だ。
生殺与奪を握った相手とでは戦いにすらならない。
(もし戦いを挑んだとして……俺の身体は何秒持つ?)
これでは無駄死にも良いところだ。
円城の崩れた肉体が、道化師の言葉の裏付けになってしまう。
自分達はあくまで舞台に上げられた人形でしかない。
操られた糸を切られれば、無様に地面に転がるしかないのだ。
レーヴェは円城を見て唇を噛み締めた。
彼の正義は滑稽なほど正しい。
ただの馬鹿と言えば馬鹿だろう。
言っている事は正しくとも、善因善果な筈も無い。
自分の命を天秤に乗せて赤の他人を救うなど宣わるのは、ヒーロー願望の幼子がやる行いだ。
現実はそんなに優しくは出来ていない。
このままでは円城は現実に押し潰されて消えるだけであろう。
(ボクは……ボクはエンを見捨てる事しか……出来ない?)
抗う事すら出来ない現実。
無理だと決め付けて、体よく諦めるには絶好の言い訳が用意されている。
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