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少女と別れてから、奇妙な空間で再会したのはつい先程のようだ。
今、聖骸を護りながら立ち去った少女と同一人物かは定かではない。
「可能性事象の一つ……か? グラハトにもう少し詳しく知識を教えて貰うべきだったな」
珍しく苦笑してから、少年は走り出した。
聖骸護衛隊の脱出まで時を稼がねばならない。
相対するは精鋭六百人からなるカシアジイーネ連邦共生国の正規部隊だ。
幾つかチャクラ解放者の気配も感じる。
フと少年は昔よく部隊の殿をしていた事を思い出した。
時には追っ手を殺し過ぎて、理不尽な文句を言われていた気もする。
「確かあの時は百人だったか……。まあ、今は何の柵もない。追う者は全員倒してしまっても構わんか」
少年はそう呟くと邪悪な笑みを浮かべた。
つい先ほどのように、仕えていた少女を馬鹿にされた怒りが燻っている。
虚仮にした相手は神の劣化版だったが、今はその少女の亡きがらを奪おうとする強奪犯だ。
少年にとっては同罪に近い。
「パリキスの安らぎを邪魔する輩は、何人足りとも――例え神でも許さん」
黒い炎がチリチリと身体から漏れ出す。
炎に見えるそれは少年の殺意だ。
炎に見えるそれは、少年の分かりやすい怒りの具現化した姿と言えよう。
こうして“黒き戦鬼”の逸話の一つが動き出す。
一騎当千。
たった一人で軍隊とやり合い、打ち勝った黒い剣士。
それはいやでも世界中に轟く事になる――
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