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とある町のとある酒場に、黒いマント姿の青年が入って来た。
いきなり温度が数度下がったような寒気に、全員の目が青年に向く。
黒髪を逆立てた青年の背には、西方大陸では珍しい刀の柄が見える。
全員が訝し気にその姿を見ていたが、何人かは何故か逃げるように酒場から立ち去った。
それを気にしていないのか、青年はそのまま酒場のバーテンがいるフロントテーブルの席につくと、葡萄酒と軽食を注文する。
バーテンは歳をとった白髪の男だったが、バーテン服の間から見え隠れする刀傷の多さから、元傭兵か何かだと分かるだろう。
バーテンは先に葡萄酒を渡してから、盗み見るように青年を眺めた。
「……何か珍しいか?」
青年の問い掛けに、バーテンは愛想笑いを浮かべる。
「いや、何、こう言う職についてからかなり立つが、兄ちゃん見たいな抜き身のナイフ見たいな人間はそうそうお目にかからないんでね。悪気はない。勘弁してくれや」
「……」
「兄ちゃん相当腕が立つだろう? ハリュハルス河川戦に参加しに来た傭兵かい?」
陽気に話かけて来る相手を面倒に感じたが、青年は仕方なく口を開いた。
「それは……もう終わっている」
その返事を知っていたかのように、バーテンは何故かウンウンと頷いている。
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