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訝しがる男の肩を商人は軽く叩いた。
「意味は分からんが、妙な自作紙芝居を見せたがっていてな。それを全て見た客にはパンをただで配っているんだ。宣伝効果を狙っているのかしれんが、売り上げが上がるとはとても思えん。商売としては酔狂なものだ」
「何だそりゃ?」
男も疑問に眉を寄せる。
だが、反応が違う人物がただ一人だけいた。
バーテンの前に座る青年だ。
「その紙芝居の内容は?」
低く通る声に全員が一瞬言葉を止める。
始めは全員の注目は青年に向かっていたが、ゆっくりと質問を受けた商人に視線は移った。
「確か……小難しい妙な英雄譚見たいな話だった……な? 登場人物のほとんどが死人と言う奇妙な内容だったはずだ」
その回答に、何人かが相槌を打つ。
「そうだそうだ。最後の最後で死者だったと分かるんだよな。どんでん返しだが、見てた子供は理解出来ていなかったんじゃないか?」
「確か題名が、『知られざる英雄たち』だったか? 本人は本当にあった事とか言ってたが、有り得ん内容だったな~」
「でも、ケチな物語よりは、俺は面白かったがな?」
わいわいと話に熱が篭り出す酔っ払い達を呆れ気味にバーテンは見ていたが、目の前の青年が微笑んでいるのを見て驚いた。
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