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その笑いに何故か嫌な予感が走るが、相手が命の取引を持ちかける悪魔な以上、仕方がない。
『大丈夫。君は僕の名前を聞けば信じるよ。君はこの大陸出身だろ? なら、君は妖精界大戦を知っているね? ならば僕の名を知っている。高確率でね』
(妖精界大戦? 名前……?)
彼女は記憶をまさぐり出した。
神誓王国メルテシオンに居れば、一度は聞いたことがある大事件だ。
王女誘拐事件。
それに付属する英雄騎士の逸話。
『そうボクの名前さ。僕の名前は――』
仮面の名前が何故か耳に反響する。
その名を聞いて、彼女は目を見開いた。
恐怖と驚嘆と困惑が入り混じった、何とも言えない表情で固まる。
『さて、どうするかい? このまま死ぬかい? それとも悪魔と取引するかい?』
ああ、相手が悪魔ならばまだ幾らかマシだったのか?
彼女は自分自身の信仰の無さを、自身の中にある薄っぺらい正義感を呪った。
自分が助かるために、変わりに世界を差し出す嵌めになるかも知れない。
それでも――彼女には提案を受け入れる事しか出来なかった。
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