消せない思い

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理事長室から出て 孝之の病室に戻る途中 階段を昇って来た悴田さんと 視線が合った。 「こんにちは」 にこやかに掛けられた声に 慌てて頭を下げる。 「こんにちは」 けれど悴田さんは そのまま私とすれ違って 階段を登って行った。 気まずさを感じながら 踊り場で体の向きを変えた時 上の踊り場から 悴田さんが言葉を落とす。 「紗枝さん。 聖さんから千里さんの事は 聞いていますか?」 「えっ?」 思わず足を止め、 上の踊り場を見上げると どこか冷めた瞳が私を じっと見下ろしていた。 「聖さんの元婚約者です」 「…………」 無言の私に悴田さんは 冷たい瞳を向けたまま 私の知らない事実を 投げつけた。
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