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次の日、いつも通り出勤してきた山上先輩。
例の事件は終わったことなんだから、最初から何もなかったことにしてしまえ。そう自分に何度もそう言い聞かせて、普段通りにしようと試みた。しかしながら、どうにもぎこちなさを隠せなかった。それは不器用すぎて、呆れ果ててしまうレベルで――
俺を見ている山上先輩の視線は相変わらずなのに、以前にも増して突き刺さるように感じてしまい、ぎこちなさに余計拍車をかけてしまった。
「水野、あのさ」
「何ですか? 山上先輩……」
話し掛けられても、顔を向けることができなかった。目を合わせたら、絶対にパニクる気がする。喉が渇いて変に張りついてしまい、これ以上の言葉が出せない。
「あのワイシャツ、返さなくていいから」
あのとき着せられた、妙に肌触りの良かった桜色のワイシャツ。某ブランド商品だったので、きちんとクリーニングに出してから返却しようと考えていた。
俯きながら力なく、首を横に振ってみせる。
「あんな高そうな物、戴けません」
「お前のワイシャツをボロボロにしちゃったのは、僕の責任だ。それにあれは……お前に似合うと思って、買ってあった物だから」
その台詞に、ドキンと胸が鳴った。
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