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(買ってあったって……いつから用意していたんだろう?)
「頼むから、受け取って欲しい水野……。すっごく似合ってたし、さ」
「……分かりました。有り難う、ございます」
そう言って横目でチラッと見ると、嬉しそうな顔をした山上先輩と、バッチリ目が合ってしまった。
慌てて視線を外したらププッと笑った声が耳に聞こえてきてキィという椅子の軋む音をさせ、俺の背広の裾をぎゅっと掴んでくる。
「何、やってるんですか?」
迷惑というわけじゃないけれど、視線同様に気になる。そのせいで、体が無駄に緊張してしまう。
「僕の精神安定剤だからね、水野は。触ってるだけで癒されるんだ」
山上先輩は掴んだまま、自分のデスクに置かれたファイルを開いた。
正面から見たら、何てことのない風景だけど――後ろから見たらまるで、子供がお母さんのエプロンを掴んで、甘えているように見える。
――そんな感じ。
直に触られてるわけじゃないけど、掴まれている重さがどこか山上先輩の想いに比例している気がして、どうしても外せなかった。
だから暫くの間、掴まれたままでいた。思っていたよりも、迷惑じゃなかったから。
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