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捕まえろって言ってるんだから、仰せの通りにしてやろうじゃないか。
前を走るガラの悪そうな男に向かって飛び出し、両手を広げて迷うことなく前方に立ち塞がってやった。
男を押さえ込もうと右腕を伸ばした瞬間、あっさり弾かれた上に、こめかみの辺りを右肘を使って思い切り殴られた。
あまりの痛さに、目からばちばちっと星が飛んだ。
頭を押えてフラフラしてる間に、男は颯爽と走り去る。
「何やってんだよ、このタコっ! 鈍くさいにも程がある。バカっ!」
かがみ込んで痛みをやり過ごす俺に罵声を浴びせた男は、散々文句を投げつけるように言いながら足早に男を追いかけた。
その言葉に多少ムカつきを覚えたけど殴られた痛みを我慢して、被ってた帽子を脱いで脇に挟め、捨て台詞を吐いた男の横に並行するように走った。
「さっきは……すみませんでしたっ。あの男を捕まえればいいんですよね?」
捨て台詞にはイラついたが自分のやらかしたミスなので、どうしても挽回しなければと考え、話しかけてみる。
「あ~? 野郎、めちゃくちゃ足早くて、追いつけないん、だぜ……」
眉間にシワを寄せ、息も絶え絶えといった感じで答える男に、ニッコリ微笑んだ。
「俺は追いつけます。絶対、誰にも負けない!」
言い終わらない内に、一気に加速した両足――履いてる靴は運動靴じゃないけれど、スライドする足はスムーズに動いた。
(――インターハイ出場、舐めんなよ! )
なぁんて大口叩いてますが、実際は予選敗退選手。だけど、そこらへんのヤツに負けてたまるか!
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