virgin suicide :貴方との距離

4/8
104人が本棚に入れています
本棚に追加
/84ページ
***  平和な日常は、そう長くは続かない。突発的に事件は起こる。捜査本部がババッと立ち上がり、捜査一課総出でバタバタ忙しく準備に勤しんでた。ただ一人を除いて―― 「デカ長、山上がデスクの上で死んでます~」  誰かが、でかい声で叫ぶ。    俺はコピー機を運ぶべく音を立ててガラガラ動かしながら、目の端に山上先輩の姿を映した。  机の上で突っ伏したまま、ぴくりとも動かない。朝から体調が酷く悪そうだった。デスクに置かれた、栄養剤の空き瓶と風邪薬。 「まったく。ここぞというときに使えなくなるとはなぁ。休日返上して、何か調べ物してただろ?」    デカ長が山上先輩の傍に行き、そっとオデコを触った。 「何でそんなこと、知ってるんですか……。デカ長は俺のストーカーですか?」    笑いながら言ってる声色に、いつもの力強さはなかった。見るからに、かなり具合が悪そう――  思わずふたりのやり取りに、眉を寄せるしかない。 「今日は帰れ。忙しいときに他の奴らにうつされても、超迷惑だからな」 「そんな。人をバイキン呼ばわりして……。帰りたくないですよ。今回のヤマは、僕の好きなモノなんだから……」 「水野っ! おい、どこにいる?」  キョロキョロして俺を捜すデカ長。コピー機を押しながら右手をぶんぶん振って、この場にいることをアピールしてみせた。 「はい、います!」 「そのコピー機の上に山上を乗せて、自宅まで連行してくれや」  その台詞に緊迫感溢れる三係が、笑いの渦に包まれた。  デカ長はいつも絶妙なタイミングで皆を笑わせ、いい感じで緊張を解す。本当に出来た上司だと思うけど、ちょっと変な人なので憧れてはいない。   (――言い換えれば、尊敬と称すべきか)    離れた場所からじっと見つめる俺に熱っぽい視線を飛ばして、面白くなさそうな顔してうな垂れる山上先輩。 「人をダシに使いやがって……」 「まあまあ。それは冗談でとにかく、水野に付き添ってもらえよ。かなり熱が高いぞ、お前」    両腕を組んで心配そうに見下ろすデカ長に諭され、仕方なく頷き、フラフラしながら立ち上がった山上先輩。 「水野悪いが、山上を家まで送ってやってくれ。抜け出せないように、両手足に手錠していいから」     またもや爆笑する同僚たち……  俺は苦笑いしながら、コクンと首を縦に振って了承したのだった。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!