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「山上先輩、自宅に着きましたよ。鍵、開けるんで貸して下さい」
背負っている山上先輩の手から鍵を受け取り、やっと開ける。中に入ると、思っていた以上に部屋が綺麗で驚いた。山上先輩のデスクの上がいつも雑然としていて、物に溢れ返っていたから。
「ベッドは……あっちかな?」
山上先輩の体から伝わる体温の高さを感じると、早く寝かせたくなった。
「よいしょっと。山上先輩、ベッドに下ろしますよ……」
静かに腰掛けて下ろそうとしたけれど、山上先輩は俺を離そうとせず、更にぎゅっと抱きしめてくる。
「ちゃんと寝ないと、風邪が治りませんよ」
その行為にドギマギしながら抱きしめる腕を解くべく、手をかけようとしたときだった。
「寒いんだよ、すごく……。水野があったかいから手離したく、ないんだ……」
いつもより掠れたハスキーボイスで告げる言葉。耳元で告げられたせいで、妙に残ってしまう。
「薬、ちゃんと飲みましたか?」
「朝は飲んだ……。昼はまだ、飲んでない、か」
「水、持ってくるので、離して下さい。ちゃんと飲まないと、熱が下がらないから」
「水なんか、いらない。薬なんてクソ食らえだ……」
「山上先輩それじゃあ、いつまで経っても治らないですよ」
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