virgin suicide :想いが重なる夜

5/14
104人が本棚に入れています
本棚に追加
/84ページ
*** 「仕事が終わったら、水野の家で話をしよう」  会議が終わり、それぞれの仕事を片付けるべく作業中に告げられた唐突な提案に、眉根を寄せて顔をすっごく曇らせた。 「山上先輩の家みたいに綺麗じゃないし、きっと落ち着きませんよ……」 「僕の家はハウスキーパーが来てるから、いつも綺麗なんだ」 「へぇ、そうですか」    さすがお坊っちゃま、お金をかけるところが庶民とは違う。非常に羨ましい。 「水野の部屋、どんなのか見てみたい。いいだろ?」 「そんな顔して言われても……」  お地蔵様に向かっているように、両手を合わせて拝みたおす。あからさまに、こうして頼みこまれても困り果てるしかない。 「水野のおねだりには負けるからな。僕なりのおねだりの仕方なんだけど?」 「何の話ですか」 「鑑識のゲンさんが言ってたぞ。水野にお願いされると、何だか断れないって。必死になって寝癖がついた頭を下げる姿に、胸を打たれるってさ」  僕は寝癖なんて格好の悪いことをしないから。とわざわざ付け加え、俺の右腕を強引に掴んでデスクから立たせると、捜査一課から連れ出すようにどんどん歩いて行く。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!