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必死に走って逃げる男にどんどん近づき、肩を並べてから優しく話しかけてみる。
「先ほどはど~も。かなぁり痛かったですよぅ」
声をかけながら爽やかな笑顔をふりまいたら、あからさまにギョッとした顔をしたガラの悪い男。
「どうもありが、とうっ!」
とうっ! のところで男の足に自分の足をを引っかけて、上手く転ばせた。さっき肘で殴られたお礼を、ここぞとばかりにしっかりと返させてもらった。
派手にスッ転ぶ男に息を切らしながらあとから来たガラの悪い男たちが、慌てて取り押さえる。
「お前、やるじゃないか。足、めっちゃ、早いの、な‥‥‥」
つらそうな呼吸をゼーゼー繰り返し、苦笑いを浮かべながら話しかける捨て台詞を吐いた男。よく見ると、俳優並みに整った顔立ちをしていた。
――むっ、羨ましい……
「僕は捜一の山上(やまがみ)。ちょっとドジっちゃって、コイツを取り逃がしたんだ。マジで助かった……」
「せせらぎ公園前派出所に勤務してる水野です。お役に立てて光栄です」
小脇に挟めていた制帽を被り直し、ビシッと敬礼した。
まるで、刑事ドラマみたいなやり取り。勿論俺は、通りすがりの警察官役なんだ。顔立ちが脇役レベルなので、いた仕方がない。
主人公である山上刑事の額から滴る汗まみれの顔が眩しいこと、この上ない。まんま熱血刑事って感じに見える。
「お前のその足、僕にくれないか?」
「は? くれないかと言われても……?」
あげれるはずがないじゃないか。何言ってんだ、この人。
ポカンとして、まじまじと山上刑事の顔を見るしかない。
「刑事になってその足で、僕のために働けよ。水野」
真剣な眼差しで、食い入るようにじぃっと見つめながら言い放つ。
この人、何気に言ってること酷くないか? まるで、警察犬みたいに扱うつもりのような発言に聞こえる。
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