virgin suicide :想いが重なる夜

10/14
前へ
/84ページ
次へ
「どうして?」  仕事のときのような、上から目線の質問。理由が分かってるくせに、わざと訊ねてくる確信犯なんだ。 「それは……山上先輩が好きだから。誰にも渡したくないから、です」  俯きながらやっと言うと、ぎゅっと身体を抱き寄せてくれた。 「妹に渡したくないくらい、僕が好き?」  耳元に告げられる言葉にコクンと頷くと、顔を持ち上げられる。 「想いは口にしろって、さっき教えただろう、ん?」    そう言って、頬にそっとキスをする。結構くすぐったい…… 「僕のことをどれだけ想ってるのか。水野の口から、たくさん聞きたい。もっと言ってくれよ。お前をキズつけた僕自身を、どれくらい好きかって」    ……知りたいんだよ。そう掠れた声で言いながら唇を塞ぐ。身体の芯がじんと痺れるようなキスに、言葉なんて考えられなくて、縋るように山上先輩の唇を貪った。 「ちょっ、待てっ! エロ過ぎるぞ、お前。その柔らかい唇で、僕を溺れさせる気か?」  冗談めかして言う山上先輩の目をしっかり見てから、自分の気持ちを告げる。今までキズつけてしまった分、想いをしっかりと込めて―― 「溺れて下さい。俺は山上先輩が欲しいんです……」  間違いなく真っ赤な顔をしているであろう自分の頬に、山上先輩は心底嬉しそうな顔してすりすりと頬擦りをした。 「ああ、こんな日が来るなんて、夢にも思わなかった。もう水野をキズつけないように、僕なりに気を遣って過ごした毎日……長かったなぁ」  そして、ついばむようにキスをする。 「大袈裟な……」    キスの合間に漏らした俺の台詞に、またしてもぶーっと唇を尖らせた。 「好きなのに手を出せない僕の気持ちが、お前に分かるのか!? しかも当の本人は、傷口に塩を塗ったくるようなことを平然とした顔でするし……ホント、鈍感だよな~」 「……すみません」 「ぷっ、謝るな。そんな鈍感なお前に惚れた、僕が悪いんだしさ」 「山上先輩……」 「溺れさせてくれ、政隆。お前で……感じたい――」  初めて名前で呼んだその唇で、いとも簡単に快楽に溺れさせる。ただ名前で呼ばれただけなのに、どうしてこんなに胸が締め付けられるのだろう。    山上先輩の唇や手が触れるたびに、その箇所が熱をもってどんどん上昇していく。もっともっと欲しくて、貪欲に求めてしまう。    ――お互いに、キズつけあったから――
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

107人が本棚に入れています
本棚に追加