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「どうして?」
仕事のときのような、上から目線の質問。理由が分かってるくせに、わざと訊ねてくる確信犯なんだ。
「それは……山上先輩が好きだから。誰にも渡したくないから、です」
俯きながらやっと言うと、ぎゅっと身体を抱き寄せてくれた。
「妹に渡したくないくらい、僕が好き?」
耳元に告げられる言葉にコクンと頷くと、顔を持ち上げられる。
「想いは口にしろって、さっき教えただろう、ん?」
そう言って、頬にそっとキスをする。結構くすぐったい……
「僕のことをどれだけ想ってるのか。水野の口から、たくさん聞きたい。もっと言ってくれよ。お前をキズつけた僕自身を、どれくらい好きかって」
……知りたいんだよ。そう掠れた声で言いながら唇を塞ぐ。身体の芯がじんと痺れるようなキスに、言葉なんて考えられなくて、縋るように山上先輩の唇を貪った。
「ちょっ、待てっ! エロ過ぎるぞ、お前。その柔らかい唇で、僕を溺れさせる気か?」
冗談めかして言う山上先輩の目をしっかり見てから、自分の気持ちを告げる。今までキズつけてしまった分、想いをしっかりと込めて――
「溺れて下さい。俺は山上先輩が欲しいんです……」
間違いなく真っ赤な顔をしているであろう自分の頬に、山上先輩は心底嬉しそうな顔してすりすりと頬擦りをした。
「ああ、こんな日が来るなんて、夢にも思わなかった。もう水野をキズつけないように、僕なりに気を遣って過ごした毎日……長かったなぁ」
そして、ついばむようにキスをする。
「大袈裟な……」
キスの合間に漏らした俺の台詞に、またしてもぶーっと唇を尖らせた。
「好きなのに手を出せない僕の気持ちが、お前に分かるのか!? しかも当の本人は、傷口に塩を塗ったくるようなことを平然とした顔でするし……ホント、鈍感だよな~」
「……すみません」
「ぷっ、謝るな。そんな鈍感なお前に惚れた、僕が悪いんだしさ」
「山上先輩……」
「溺れさせてくれ、政隆。お前で……感じたい――」
初めて名前で呼んだその唇で、いとも簡単に快楽に溺れさせる。ただ名前で呼ばれただけなのに、どうしてこんなに胸が締め付けられるのだろう。
山上先輩の唇や手が触れるたびに、その箇所が熱をもってどんどん上昇していく。もっともっと欲しくて、貪欲に求めてしまう。
――お互いに、キズつけあったから――
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