109人が本棚に入れています
本棚に追加
「それは大変そうですね。今回取り逃がしたのって、そのせいなんですか?」
「いや、デカ長の判断で動いていたんだがな。山上の勘で動いてたら、こんな大事にならなかったと思うなぁ。だけどヤツのやることはリスクがでかいからね。誰もやりたがらないんだよ」
日頃から、いろいろと苦労してるんだろうな。疲れ切った顔が、すべてを物語っている気がする。
はあぁと大きなため息をついて肩を落として去って行く垂れ目の刑事に、頑張って下さいと心の中でエールを送った。
「君もその内、イヤというほど分かるよ。ヤツにスカウトされたんだから」
立ち去りながら、呟いた言葉が耳に入った。
そのせいで微妙な気持ちを抱えて、呆然と立ちつくしてしまった。イヤな胸騒ぎが激しくする。
『インプットしたからな!』
そう言った山上刑事の嬉しそうな顔が、なぜだか頭から離れない。今からでもいいから俺のこと、キレイさっぱり忘れてくれないだろうか。
しかしその後、交番に戻って小一時間ほど経った夕方、電話が鳴った。それは明日、署長から人事の話があるというので顔を出してくれという内容のものだった。
電話を握り締める掌に、ジワリと汗が滲む。
自分の大事な未来が見えない糸で操られ、希望していない方向にうんと強く引き寄せられている感じに思えてならなかった。
――抗う事の出来ない、強い何かに……
最初のコメントを投稿しよう!