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右手を出したのでその手にUSBを置くと、傍にあった金庫に手早くしまった。
「一緒に警察病院へ行こうか。山上が待っているから」
俺の返事も聞かずに左手首を掴んで、強引に引きずりながら足早に歩く。
「山上先輩……無事、なんですよね?」
訊ねているのに、顔を背けて答えてくれない。その代わり掴んでいる手首を、強くぎゅっと握りしめられた。
取り乱した姿の関さん。俺の質問に答えてくれない関さん。らしくない関さんの姿に、心臓がバクバクと音をたてた。同時に口の中もカラカラに渇いてきて、声を出すことすらできなかった。
引っ張られたまま無言で関さんの車に乗り、警察病院に向かった。運転しながら、関さんがやっと口を開く。
「水野くん、達哉は最期まで頑張ったそうだ……」
その言葉に、くっと息が詰まった。
(最期まで、頑張った――?)
「君がUSBを届けるために、頑張って走っただろう? 達哉も同じ頃、頑張っていたんだよ。だから……一緒に、労って、やろう、な……っ」
鼻声になった語尾にもらい泣きしそうになったけど、何とか必死に堪える。俺は泣かないって決めたから。――強くなるって、山上先輩に誓ったんだから!
悲壮感漂う車内に、静かなピアノ曲が流れていた。その旋律が、今は無性に胸に響く――
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