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愛しそうに見つめてくれる、ふわりと柔らかく笑った顔――
「こんなにすごい人が自分の恋人だったなんて、ホント奇跡みたいな話……。俺はドジばかりして、ダメな男だから」
――今だってそう――何をすればいいのか分からない状態で。無気力とは違う、何かに支配されていた。心と身体がずっと、貴方を求めているんだ。悲鳴をあげ続けているんだよ……
「ねぇ、そっちに逝ったら両手を広げて、俺を迎えてくれる?」
山上先輩がいなくなってから、特に夜が淋しくて身体が冷たかった。いつも甘えるように、貴方は俺に抱きついて寝ていたせいだね。そのぬくもりがないことを、ひしひしと感じただけですごく――
「つらいんだ、死にたくなるほど。つらい、よ……」
「死んだら山上に叱られるぞ。何やってんだ、このバカ! ――ってな」
顔を上げて声のする方を見ると、そこにはデカ長が苦笑いしながら、こちらに向かって歩いている姿があった。
「山上の墓前で、どうして辛気臭い顔してるんだ。ほらそこ、ちょっと退いてくれや」
慌てて言われた通り退くと、小さくて可愛らしい敷物をババッとそこに敷いた。
「娘が幼稚園の時に使ってた、お古なんだよ。水野、ここに座りなさい」
「……失礼します」
靴を脱いで座ると、向かい合う形でデカ長も座った。カバンから、おもむろに缶ビールを取り出す。
「なぁ、山上。コイツ酷いんだ。今日は表彰式だってのに、勝手に欠席してよぅ。しかも俺のデスクに辞表を置いて、さっさと出て行きやがったんだ」
言いながら俺の手に無理矢理、缶ビールを持たせた。
「山上が亡くなってからの一ヶ月半で、水野はえらく成長したと思ったんだけどな。事件が解決しちまったら、一気に何かが抜けてしまったか?」
垂れた目を細めて、優しく微笑むデカ長。いつもとは違う優しい雰囲気にどうしていいか分からず、手渡された缶ビールをじっと見つめた。
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