virgin suicide :貴方が残してくれたもの

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 いろんな想いがぶわっと胸の中に詰まって、涙を流しながら嗚咽をあげる俺に、デカ長は優しく頭を撫でてくれた。 「山上が、捜査一課に初めて来たときな。隣にある、マル暴担当に配属されたんだよ。ホストみたいにブランド物のスーツをビシッと着こなして、刑事らしくない雰囲気を何となくだけど漂わせててさ。初めまして、山上 達哉です。好きな言葉は徴悪です。って言ったのが、印象的だったなぁ」 「うっ……何か、山上先輩らしいですね。勧善懲悪って言わないトコが」  鼻をグズグズさせながら言うと、笑いながら大きく頷いた。  その頃の山上先輩は、今と変わらずカッコイイんだろうな。  流れ落ちてくる涙を拭って、デカ長の話をしっかりと聞いてみる。 「犯人検挙するためには、手段選ばないヤツだったから。持って生まれたセンスも手伝って、手柄と一緒に始末書もたくさん立ててたけどな。実際はその手腕を買われて、三係に引っ張られたんだよ。それと同時に関に頼まれて、所轄の汚職事件の捜査に着手したんだ」 「デカ長は、山上先輩がその事件調べてるのを知っていたんですね」 「始めからじゃないさ。デカ長になって、暫くしてからかな。関に呼び出されて、オーバーワークにならないように気をつけてやって欲しいと頼まれた。そのときに事情を聞いたんだ」  デカ長が空を見上げながら、切なそうな顔をする。 「毎日きゅうきゅうと仕事してた山上が、水野が来てから変わったなぁ。落ち着いたというか、しおらしくなったというか」  信じられない言葉を聞いて、げぇっと言いながら眉間にシワを寄せてしまった。 「あの、アレで落ち着いた……と言うんですか?」 「水野が来る前はほぼ毎日、関と始末書についてケンカばかりしてたから。表向きは、犬猿の仲を演じていただけみたいだが」  デカ長は深いため息をついてから、手に持っている缶ビールのリングプルを引き抜いた。
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