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―20数年前―
「ゆーじ!ほら起きて!行くよ!」
まだ外が暗い。
「ねえちゃ…もう朝?」
「ほら!カブトムシ獲りに行くよ!」
眠い目を擦りながら布団から抜け出した。
夏休み。
時計を見るとまだ五時前だった。
「姉ちゃん。まだ暗いよ?危なくない?」
「今から歩いていくから、じきに明るくなってくるよ。さ、行こー」
市販の虫取網に竹の棒を継ぎ足して長くしたものと、虫かごを抱えて田舎家を出発した。
田んぼのあぜ道を、二つの麦わら帽子が歩いてく。
「あ!ほらカエル!」
道すがら、物珍しい俺はよく足を止める。
「ほらゆーじ!カエルくらいいくらでもいるってば!てか、じっとしてたら蛇が出るよ」
「ひぇっ!?へび!?」
「カエルを食べに来るんだよ」
「ふあぁぁあ!早く行こ行こ!」
大笑いする姉さんを後ろから押しながら歩いた。
数ヵ所あるポイントをまわり、【カブトムシの木】と呼んでる穴場へ到着する。
そこへ至るまでに、すでに虫かごのなかはカブトムシとクワガタでひしめき合い、実際にキュシキュシと音をたてている。
「あ!ほらアソコ!あ!コッチにも!ほら貸して!」
虫網を伸ばす。
いつもよく見つけるなぁと感心して見ていた。
網の先で木を撫でると、茶色が網の中に落ちた。網を手繰り寄せるとノコギリクワガタがもがいている。
「これで何匹だっけ?」
「え、と…じゅうご…かな」
「今日はこのくらいで勘弁してあげようかね」
こうして意気揚々と山を降りた。
家に着いた頃には、ちゃぶ台に朝御飯が並んでいた。
僕たちは本日の収穫を大きな虫箱に移しかえ、スイカを新しく追加投入した。
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