あの日

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めざしにご飯と豆腐の味噌汁を食べ終わると、水着に着替えて川へ向かった。 「こっちに大きいのいたよ!」 「えぇ!ホント!?見たい!」 姉ちゃんはザブッと潜る。 小さかった俺は、胸の辺りまである水の抵抗に手間取りながら、姉ちゃんのもとへ向かう。 水面から顔半分を水中メガネに覆われた頭が現れた。 「ここ!この石の隙間に!」 俺もおでこにつけていたゴーグルを下へずらし、すうっと息を吸い込むと、川の中へ屈みこんだ。 物心つく前から川で遊んでいた俺は、水に対する恐怖心はなかった。逆に、水中の世界が幻想的に見えた。外界とは違う、浮遊した感覚。揺らいで見える視界。 そんな世界へ行くのも、いつも姉ちゃんが一緒だった。 夜。 月の無い暗闇。 見上げると、そこには星が散らかされていた。 「あ!ほら今流れた!」 「うぇっ!見逃し…あ!流れた!」 降り注ぐ星空。 姉ちゃんはそんなとき、よく口づさんでた。 きーらーきーらーひーかーるー… 俺も乗っかって一緒に歌う。 おーそーらーのーほーしーよー… 周りの大人達も、ビール片手に俺たちの歌を聞きながら星見酒。そんなゆったりした時間だった。
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