あの日

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その場にヘタリこんだ。 そのままうずくまって、叫び続けた。 あぁぁぁぁぁぁ! 背中になにか感じる。何かが叩いている。 フッと振り返ってみると、小さなしょうこがほっぺを膨らませていた。 「もう!おおきいこえはめっ!ちずかにちて!」 しょうこは怒っているようだった。両手を腰に当てている。 「ままがねんねでしょ!おこちたらめっ!ままちかれてるの!」 口許に指を立ててシーっと言った。 俺は、そのしょうこを抱き締め、声を殺して泣いた。 こんな時にさえ、こんな時だからこそなのか。 気持ちが落ち着くまで待ってくれたりはしない。 次の日、通夜が行われた。 たくさんの人が来てくれた。 恐らくは記者なんかも混じっていたと思う。 憔悴したアカネさんと、前の事務所関係の人たちの手助けもあって、葬儀まで終わらせた。 出棺、火葬へ。 火葬場へ着いて、しょうこが俺に聞いてきた。 「ままおきないねぇ」 「そうだな」 「まま、あっこじゃちぇまいよ。ねにくいよ」 まったくもう、と、また腰に手をおいて怒っていた。 いよいよ、姉ちゃんが釜へ入れられた。 「ダメ―――!」 しょうこが叫んだ。 「まま、そんなとこいれたらダメ―!」 棺桶に走り寄る。 「ままおきてー!あさよー!おきてー!」 周りからすすり泣きが聞こえる。俺はしょうこを抱き上げる。 「ままおこさなきゃ!おちごとあるでしょ!おこさなきゃ!」 棺桶がゆっくりと入っていく。 「だめー!ままいれたらダメ―!」 ままー!と叫ぶ声が、火葬場にこだまする。 「だぁめー!それあけてー!ままだしてぇー!」 暴れるしょうこ。 そして、釜に点火される。 「なんで!?ままもえちゃうよ!だめー!だしてー!ままぁー!」 周りのすすり泣きが大きくなる。俺も声を殺して泣いていた。 「ままあついよ!やめて!けして!」 「ままをやかないでぇ!」 俺は、何も言えなかった。 泣き叫ぶしょうこに、何も。ただ、抱き締め泣くことしかできなかった。 姉さんが白い粉になった頃には、しょうこは泣きつかれて寝ていた。 小さな、ホントに小さな壺に、姉さんは納められた。 姉さんを亡くして、俺に残された家族は、しょうこだけになった。 だから、俺は覚悟を決めたのだ。 しっかりしょうこを育てようってな。
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