あの日

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「なあ!頼むよ!」 高校の同級生だった小松ひろし。こいつが俺の仕事場にバイトで来たのが始まりだった。 「うちのボーカルがヘタクソでさ、お前歌ってくんないか?」 「嫌だよ。なんで俺が」 「お前のライブはうちの高校の伝説になってんだぞ?みんなプロになんじゃねえかって言ってたくらいなのによ」 「…………」 「頼む!人前に出ることもないから、ただの自己満のPVだからよ!」 「…人前に出ないのか?」 「あぁ。歌ってるのを撮影して、今後の参考にするだけだからよ!とりあえず演奏聞いてもらえねぇか?」 そうしてメンバーを紹介された。 歌詞を読み、演奏を聞いてみた。 「どーだ?どんな感じだ?」 「んー…そうだな」 感じたままを話した。 「じゃチョット歌、入れてみてくれねぇか?そうしたら俺たちもイメージがしやすいと思うからさ」 こいつ勉強は全然してなかったのに、こういうことになると真面目でマメだな。そして俺は歌ってみた。 ―何度か練習を繰り返し― 「コレ着るのか?俺が?」 フリフリゴスロリのドレスを持ち上げて叫んだ。 「帰るわ!」 「ま、ま、ま、待てって!この曲のイメージってフランス人形って感じじゃん?だからイメージ通りの衣装ってことで」 「なんで30過ぎたオッサンが女装、しかもゴスロリなんて着なきゃいかんのだ!ざけんな!」 「いやいや、逆にお前のためだと思ったんだよ」 「はぁ!?言ってることわかんねぇよ!俺にそんな趣味はねえ!」 「いやそうじゃなくてよ。ちゃんとメイクもするし、これで撮影して映像残しても、誰もこれがお前だって思わねぇだろ?そっちのほうがお前もいいんじゃねえのか?」 まあ、確かに。 そう思って、渋々、ホントにイヤイヤ承諾した。
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