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――秋も深まる十一月。
葉月さんはデートの時は、車で送迎してくれるようになった。
とはいえ、男女交際に煩い父に知られないように、駅前で待ち合わせ。
クラクションを小さく二回鳴らし、葉月さんは私を呼ぶ。
呼ばれた私は、仔犬のように車に駆けより、助手席に乗り込む。
「美紅、遅いよ。駅前はあまり駐車出来ないんだから、時間厳守」
「は~い」
「美紅、俺は怒ってるんだよ。何笑ってるの」
最近、葉月さんは私の事を『美紅』と呼び始めた。それが嬉しくて、『美紅』と呼ばれる度に、私の顔はネジが緩み、煮崩れした豆腐みたいにクシャッとしてしまう。
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