あれから三ヶ月。

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「………そりゃ私だって、顔見たらもっと一緒にいたいって思うよ」 「………………」 「私、勝手すぎる?」 証の反応が予想外だったのか、柚子は少し窺うように上目遣いになった。 その顔を見た証は思わずふっと苦笑する。 「………お前って、狡いよなぁ……」 しみじみと呟かれ、柚子はびっくりしたように目を丸くした。 「えっ、狡い…!? 私?」 「ああ、かなり」 「ご、ごめん。やっぱり私から週二回ペースって言い出したのに、勝手すぎるよね」 「………そうじゃなくて」 証は柚子の後頭部に手を回して引き寄せ、コツンと額同士を合わせた。 間近で視線を絡ませ、薄く笑う。 「惚れた弱みってことだよ」 柔らかくなった表情と声色に、柚子はただ困惑したように眉を寄せた。 柚子に振り回されている自覚がありながらも、何故かそれが心地いいと思う自分がいて。 そのことを滑稽に思うものの、そんな自分が嫌いじゃないと。 証はそう思っていた。 昔の自分なら、女に振り回されるなんてまっぴらごめんだと思っていたのに。 触れるだけの軽いキスを柚子の唇に落としてから、証はおもむろに体勢を元に戻した。 「………さて、じゃあどこに行く? 飯でも食いに行くか?」 シートベルトを締めながら問うと、柚子はハッと顔を上げた。 「ううん。証の家に行こう?」 「え、でも……」 「今日は証にご馳走作ってあげたい気分なの。それに……」 「…………?」 「それに、早く、二人っきりになりたいから」 うっすらと顔を上気させた柚子を見て、証は目を見開く。 普段あまりこんな風に甘えたことを言わないので、軽い驚きと共に妙な新鮮さを覚えた。 「…………ふぅん?」 柚子の目を覗き込みながら、証はニッと笑った。 「お前、覚悟しとけよ?」 「………………!」 カアッと柚子の顔が真っ赤に熟したのを確認してから、証は逸る気持ちをなんとか抑えこみ、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。 しとしとと雨が降りしきるなか、二人を乗せた車は証の家に向かって静かに発進したのだった。 一 End 一
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