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興奮しているのか顔を紅潮させ、朝倉は睨むように柚子を見据える。
それを見た柚子は逆に冷静になり、二人の温度差をひしひしと感じてしまった。
「………もう、橘の中では過去のことか?」
「…………朝倉くん」
「でも……でも俺はまだ…っ、全然気持ちにケリつけれてねーんだよっ!」
叫んだかと思うと、朝倉は握っていた傘を取り落とし、代わりに柚子の両肩をガッと掴んだ。
虚を衝かれた柚子は、呆然と朝倉の顔を見上げた。
「一一一吉田にホントのこと聞かされてからすぐ、橘に電話したんだ。……でも番号代わってて繋がらなかった」
「…………………」
「それで諦めようとしたけど、やっぱり無理で。……自分の中で全然決着つかなくて、勇気振り絞って家まで会いに行ったけど……引っ越した後だった」
朝倉の顔を見つめながら、柚子はぼんやりと色んなことを思い出す。
今の話を聞いて、朝倉と自分はつくづく縁がなかったのだと実感した。
もし携帯が繋がらない時点で家に来てくれれば、まだ引っ越していなかったはずだ。
何しろ今のボロアパートに移ったのは、まだたったの一年余り前なのだから。
「…………離して、朝倉くん」
ぽつりと呟くと、朝倉の指に更に力が加わった。
朝倉は柚子の目線まで膝を折り、真っ直ぐに柚子の瞳を射抜く。
「………俺達、やり直せないか、橘」
「………………!」
力強い言葉に、柚子は驚いてごくりと息を飲み込んだ。
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