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「だから言ったろーが」
「は?」
「ったくお前はいつまで経っても警戒心っつーもんを身につけねーよな」
呆れるというよりは怒った口調で証は柚子にそう言った。
未だに何故ここに証がいるのかよく理解できていない柚子は、ポカンと口を開けてただ証の顔を見上げていた。
先に我に返ったのは朝倉のほうで。
混乱しつつも、証にこの場を邪魔されたことだけはわかったようだった。
惚けていた表情をスッと険しくし、朝倉は証を睨みつけた。
「………誰なんだよ、お前。邪魔すんじゃねーよ」
「………………!」
朝倉の乱暴な物言いに、今度は柚子が我に返る。
証がどんな性格か知らないとは言え、そんな口をきくとはなんと命知らずな……。
「…………あ?」
案の定、証は不機嫌さをあらわにして真っ向から朝倉の視線を受け止めた。
横でそれを見ていた柚子は縮み上がる。
だが証はそんな柚子の腕を掴み、ぐいっと朝倉の前へと体を押しやった。
「………………!」
驚いた柚子が証を振り返ると、証は頷いてからクイと朝倉のほうを顎でしゃくった。
「俺が誰かって聞いてんぞ。お前の口から言ってやれよ」
「……………え」
「はっきり言ってやれ。……んですっぱりトドメ刺してやれ」
柚子は目を見開き証を見つめる。
すると証はもう一度大きく頷いた。
「………………」
証にしては感情を抑えていると、柚子はそう感じた。
柚子自身に、過去の恋にケジメをつけさせようとしているのだということが、この時ようやく理解できた。
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