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梅雨独特の重い湿った空気が、より一層重さを増したように感じた。
ザワザワとした雑踏のなか、三人の間の空間だけがぽっかりと取り残されたように浮いてしまっている。
その重い空気を、朝倉が静かに破った。
「………そっ…か。いつまでも引きずってんのは、俺だけか」
自嘲気味に言い、朝倉は前髪を握り込みながら薄く笑った。
柚子はゆっくりと顔を上げる。
「なんか、再会できて、運命感じたりとかしてたの、馬鹿みてぇ」
「………………」
「女って……そうだよな。切り替え早ぇもんな。吉田だってすぐに他の彼氏作ったし……」
独り言なのか恨み言なのかわからない言葉を、朝倉はぶつぶつと呟いた。
最後の一言はさすがにカチンときたが、柚子はあえて何も言わないことに決めた。
おそらくフラれたショックが朝倉の心を掻き乱して、事実を受け入れられずにこんな暴言を吐かせてしまっているのだろう、と。
「…………………」
だが、そうやって憤りを飲み込んだ柚子の前に、後ろから歩いてきた証がザッと立ちはだかった。
「一一一一さっきから聞いてりゃ、自分だけ被害者みてぇなことばっか言ってんじゃねーぞ、てめぇ」
「………………!」
柚子はギョッと斜め前に立つ証の顔を見上げる。
その横顔はうっすら紅潮しており、それだけでも証が激しく怒っていることが伝わってきた。
朝倉は不機嫌そうな目を証に向ける。
「………なんだと?」
「お前こいつのこと好きだとかつって、一体こいつの何を見てきたんだよ。こいつがそんなすぐに切り替えられるような器用な女だと思ってんのか?」
感情をあらわにして、証は激しい語調で朝倉に言葉を投げ付けた。
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