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証はふーっと大きく息を吐き出した後、くるっと柚子を振り返った。
そうして柚子の手首を掴み、グイとその体を胸に引き寄せる。
まるで見せ付けるように強く肩を抱き、再び朝倉に強い視線を投げた。
「いいか? この先どっかでこいつのこと見かけても、二度と話しかけんじゃねーぞ。んで二度とこいつの視界に入んな。わかったな!」
最後はかなり無茶なことを言い、証は柚子の肩を抱いたまま朝倉から視界を遮るようにしてクルリと方向転換した。
その時になって初めて、柚子は少し先に証の車が停まっていることに気がついた。
さっきの口ぶりからして話の大半は聞いていたようだが、一体いつから傍にいたのだろうか。
「一一一一一橘!!」
その時、背後から大きな朝倉の声が聞こえてきた。
柚子は肩越しに朝倉を振り返る。
つられたように証も足を止めたが、柚子の肩を抱く手の力は緩むことはなかった。
「…………………」
ポツリ、と雨の雫が証の手の甲に落ちて弾けるのが柚子の目に映った。
続けて大きな雨粒が空から降ってきて、一つ二つとアスファルトに染みを作っていく。
先程までの興奮した顔ではなく、朝倉の表情は静かだった。
その瞳が小さく揺れたかと思うと、やがて朝倉は重々しく口を開いた。
「…………ごめん、橘」
振り絞るように呟かれた言葉に、柚子はハッとする。
柚子を真っ直ぐ見つめたまま、朝倉は言葉を続けた。
「傷つけて、ごめん。………自分のことしか考えてなくて、ごめん」
「…………………」
「一一一一一ホントに、ごめんな」
短くて、決して上手い言葉ではなかったが。
謝りたいという気持ちだけはちゃんと伝わってきて、柚子は小さく笑いながら朝倉に向き直った。
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