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柚子の笑顔を見て安堵したのか、朝倉は手を下げて肩の力を抜き一一。
直後、想いを断ち切るようにして勢いよく踵を返した。
そのまま駅の方向へ向かって歩いて行く朝倉の後ろ姿を、柚子は複雑な思いで見送った。
(………さよなら。朝倉くん)
長い間の探し物がようやく見つかったかのように、胸の支えがスーッと取れていくのを感じ。
柚子は晴れやかな笑顔で証の顔を見上げた。
「ありがとね、証。言いたいこと全部代弁してくれて」
「………お前が言われるがままになってるからだろ」
柚子の肩を抱いたまま、証は不本意だと言わんばかりの顔をした。
だがすぐにその姿を追うように、朝倉が歩いて行った方向に首を巡らせた。
「…………でもまあ、そんなに悪い奴じゃねーのかもな」
「…………………」
最後の潔さが印象を変えたのか、証はそう言ってふっと吐息した。
柚子は小さく笑いながら、ゆっくりと頷く。
「…………うん」
嬉しそうな表情を見せた柚子を見てイラッとしたのか、証は柚子の頭をぐしゃぐしゃとかき回した。
「ちょっ……何すんのよ!」
「言っとくけどな、前に会った佐伯って奴よりはマシってレベルだからな! 二人とも俺の足元にも及んでねーんだからな!」
「………………」
「大体お前のその男見る目のなさで、よく最終的に俺にたどり着けたもんだよな。すげー大金星だぞ」
「………………」
よくもまあここまで自分のことを褒めちぎれるものだと思ったが、柚子はあえて黙っていることにした。
悔しいが、そのほとんどが事実だったからだ。
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