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*
愛しい君が死んだ。
優しい笑顔が頭からはなれない。
もう、君にはふれられない。
*
桜の花も散り、緑が増え始めた4月。
やっと暖かくなってきたことに、嬉しさと小さな胸の痛みを感じる。
「ねえ、パパ」
庭の桜木を眺め、想いに更けていると足下から小さな声が聞こえた。
そこには4月3日に3歳をむかえたばかりの愛娘が俺の顔をのぞきこんでいた。
「なんだい?」
その小さなな体をひょいっと抱えると、コアラのように抱きついてきて母親によく似た瞳をこちらに向ける。
首にまわされた手は自分の体温よりあたたかく、心地が良い。
「ママ、元気かな?」
「…きっと、元気だよ」
娘の口から出てきた、さっきまで想いをはせていた最愛の人。
彼女は去年の4月27日に事故に遭って亡くなった。
酔った男の運転する車が歩道に突っ込み、その場にいた彼女は娘を守ってこの世を去った。それは、突然の死だった。
「なあ、ゆず。お前は必ず俺が守るからな」
彼女を守れなかった俺は、彼女が残した二人の宝物を守ることしかできない。
小さな頭を優しく撫でると、目を閉じて嬉しそうに笑うゆず。
「じゃあ、パパはゆずが守るね!!」
「…沙樹っ」
思わず、彼女の名前が出た。
こちらに向かって笑うゆず。その笑顔は優しく、しっかり者の彼女の母、沙樹の優しい笑顔にそっくりだった。
君を守れなかったことは辛いけど、こうして君の面影を残した大切な娘を守れることが、幸せだよ。
俺は空に向かって誓う。
きっと彼女にも届いているだろうと信じて。
*
(パパ泣いてるー)
(…ひぐっ…ゆずぅー)
(パパいたいいたいのとんせけー!!)
(…ずびっ…"とんでけ"だよ、ゆず)
2013/04/17
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