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雪も解け、山奥にある学園にもようやく春の訪れる気配がし出した3月某日。
白衣を身にまとった医者は、こちらを落ち着かせるように、もう一度ゆっくり同じセリフを言った。
「精密検査の結果、病名は××××だと判明しました。これは脳の細胞が徐々に侵されていくものでして、詳しい説明は後日落ち着いてから致しますね。簡単に言いますと身体の機能が働かなくなる病気です。当病院にいらっしゃった原因の眩暈などの症状はそのためです」
「えぇ、えぇそれは分かりました、それより先生、息子は治りますよね?大丈夫ですよね」
「××××は現代の医療では治すことの出来ない難病と言われております。
………大変申し上げにくいのですが、今すぐ入院して頂いて、余命は……5年かと」
「ご、5年!?」
母親が悲鳴のような声で小さく叫ぶ。
隣で父親が息をのんだ。
「ま、待ってください、5年ですって!?先生、この子はまだ15歳なんですよっ……お金は幾らでも払います、お願いです、治して、この子を助けて下さい!お願いします!」
「落ち着いて下さいお母さん!」
「まだこんな子供なんですよ!私の体をあげてもいい、何でもいいから、5年だなんて!!」
「母さん、気持ちは分かるが落ち着きなさい。先生にあたっても仕方ないよ、深呼吸して」
「あなた、長海が、長海が」
「あぁ……ああ。大丈夫、ほら、吸って、吐いて」
俺様は、大人たちの騒ぎように視線を外にずらした。
いまいち実感がない。あと5年でこの世界とおさらばだなんて。
「あくまでも目安ですので、入院して闘病生活になりますが延びる可能性も十分ございます。ですから、」
「なぁ、先生」
俺様は窓の外で桜の蕾が固く縮こまっているのを暫く見た後、真っ直ぐ医者の目を見た。
「入院しなかった場合、高校卒業までこの体はもつか?」
長海!?と母親の引きつった声、父親の厳しい顔、医者の慌てた様子に、俺様は首を横に振った。
白い箱のなかで横たわるだけの人生なんてまっぴらだ。
俺様は、俺様として、生きて死にたい。
ごめんな、と小さく言う。
この蕾が咲くのを、俺様はあと何回見れるだろうか。
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