第1話

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「童顔のチビ!」 「年増のハゲ!」 「誰が年増のハゲだ!」 「誰が童顔のチビだ!」  口を揃えて文句を言い、同時にお互い否定をする。髪を引っ張ったり、頬をつねったり、もはや小さな子供の殴り合いになっていた。  彼らは成在探偵事務所で働く探偵である。しかし、事務所も認めるほど仲が悪いのだ。そのため、このように毎日、顔を合わせると子供のように喧嘩を始めてしまう。 「あーあ……。またやってるよ」  このくだらない二人のやり取りに慣れてしまうとは、実に悲しいことだ。呆れたようにため息をつき、唯澄は睨み合う二人の頭を叩いた。 「いった!」 「いってぇ!」  二人は頭を抑えて、唯澄を睨みつけた。何すんだよ、と言わんばかりに。 「早く片して下さい! こんな暑いところに何時間もいたら、熱中症で確実におだぶつですよ?」  叫んだせいか、軽く頭が痛い。一番日の当たるこの倉庫は、三十度を超えている。まるで温室のようだ。こんなところにいては、熱中症で倒れてもおかしくない。 「わかった、わかった。やりゃーいーんだろ」  涼葉はため息をついた。と、隣を見ると、既に椋汰の姿は無い。  自由奔放の彼が動いていない時は無い。それなら、この倉庫の片付けもすぐさま終わるのだが、そういう面倒なことでは彼は動かない。都合がいいとは、まさにこういうことだ。 「おっ。涼葉の好きそうなものはっけーん!」  椋汰は大量にゴミなどが沢山入っている壷を、どっからか持ってきた。 「さっさと見せろ」 「何でこんなにガラクタが多いんですかねー」  ため息交じりで唯澄がそう言うと、涼葉は椋汰に渡された骨董品と思われる壷を手に取り、仏頂面になった。彼が骨董品を見たとき、仏頂面になるとそれは偽物だという証拠だ。どうやら手に持つ壷は偽物らしい。割れない程度の力で乱暴に床に置く。 「偽モンだ! 壊しとけ!」  理不尽すぎる。そう思いつつ、唯澄は壷を彼から遠ざけた。割られたら困る。 「あっ、そう言えば……」
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