唇の距離

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それから数日は呆気なく思えるほど何事もなく過ぎた。 あの翌朝、 麻紀はいつもと変わらない賑やかさで、 私達は揃って仲良く出勤した。 「また崎田が来たら、いつでも行くからね」 「麻紀、呼び捨てになってる」 「もういいよ、呼び捨てで」 そんないつも通りの会話を交わした。 でもさすがに諦めたのか、 それとも今の彼女のお相手に忙しいのか、 崎田さんはあの月曜の夜以来、 姿を見せていない。 だけど正直、 そんなことはどうでもよかった。 戸川君はどうしてるんだろう? そればかりが気になるのに、 相変わらず顔を見る機会すらない。 あれだけ避けてた社食にすら、 行けば会えるかもという望みをかけたのに、 今週は会議が多くて余裕がなく、 自席で昼食をとる日が続いていた。
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