唇の距離

32/37
6291人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
「仕方ないね。 売上のない部門の宿命だよね」 ふ、と苦笑いしてから思い出して付け加えた。 「そうだ、三浦君もたぶん同時に副主任になるはずだよ」 「やった!」 こんな話の後なのに、 三浦君は満面の笑みで喜んだ。 見ていてホッとする素直さだなと思う。 「これであいつと同等です!」 「あいつって、戸川君?」 そうですよ、と鼻を膨らます三浦君に吹き出した。 「戸川君もそのうち主任に昇格すると思うよ。 海事の出世頭だって聞いたから」 ふん、と不満げに鼻を鳴らしてから、三浦君がポツリと聞いてきた。 「さっきあいつ、 何しに来たんですか?」 「いいかげんに “あいつ”呼ばわりやめたら? 先輩なんだから」 「何の用事だったんですか? 室長にうまくごまかしてあげたのに」 机の上に重ねて置いた携帯と名刺入れに目をやる。 “仕事終わったら電話して” 夜、会えるってこと? 電話することを考えるだけで、 今頃から落ち着かない。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!