唇の距離

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「今日はお疲れみたいだし。 急ぎの件がなければ帰っていいのに」 「……先輩。」 机に顎をのせたまま、 三浦君がギロリと目だけでこっちを向いた。 「さっきから、やたら僕を帰そうとしてませんか?」 「……そんなことないよ」 鋭い。 言われてみれば、さっきから五回ぐらい帰れと言ってる気がする。 「初めてのプレゼンだったし、 疲れたんじゃないかと思って」 無意識の自分の下心に苦笑しながらごまかした。 「反抗したい所ですけど…情けないけど僕、脱け殻状態なんで。 今日は先輩の言うとおり帰らせてもらいます…」 「うん。承認も取れたから大成功だったよ。 祝杯あげておいで」 先輩にお祝いして欲しかったなとぼやきながらも、あっさり帰り支度をするところを見ると、誰かと約束があるんだろう。 三浦君を見送ってから、 残務を机に広げた。 でも仕事に集中しようとしても、 携帯が気になって仕方がない。 時間を見ると、七時前。 もうかけるべき? まだ早い? 携帯を握り締め、 ふーっと深呼吸をする。
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