唇の距離

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……考えてみれば、 別に食事に誘われた訳じゃない。 単に、電話で午前中の話の続きをするだけ、かもしれない。 そう考えると、仕事を急いでいた自分がバカみたいに思えてきて、携帯が目に入らないよう鞄に押し込んでみたりした。 結局、意を決して携帯を手にした時には七時を大きく過ぎていた。 女子トイレで番号を表示したディスプレイと睨めっこすること数分、最後はえいっと目を瞑って思い切る。 『……もしもし』 数回の呼び出し音の後、 耳元で低く響く、 電話越しの声に心臓が跳ねた。 ブラウスの胸元をぎゅっと握る。
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