唇の距離

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「あ…成瀬です」 『遅い』 「ご、ごめ…」 『仕事終わったか?飯行ける?』 「えっ?うん、行ける、けど」 『中目黒の改札でいいか? そこで待ってる』 「へっ、あ、わかった」 『じゃ、後でな』 「…あ、」 まともに返事することもできないまま、あっと言う間に切れた携帯を茫然と眺めた。 ……ご飯、一緒に行けるんだ。 彼との通話を頭の中で繰り返すうち、じわじわと実感が湧いてきて、携帯をぎゅっと抱き締めた。 ふと我に返る。 戸川君をこれ以上待たせる訳にはいかない。 急がなきゃ…! それにしても中目黒って、 なんで私の駅…? 首をかしげながら慌ててメークを直し、残りの仕事を鞄に詰め込んで会社を後にした。
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