唇の距離

5/37
前へ
/37ページ
次へ
「昔、海事の米州部にいた片桐さんです。 知ってますよね?」 「結局、教えてくれるんだ? でも片桐さんって知らないなぁ」 取締役の名札通りに資料が置かれているかを順繰りにチェックしながら返事する。 「王子って女子に騒がれてた有名人なのに、知らないんですか?」 「王子?」 麻紀なら知ってそうだけど、 私は少し苦手な人種かもしれない。 王子だなんて、 自信過剰なイメージだ。 「仕事できて優しくて、 完璧らしいですけど。 …なんか心配です」 「何が心配なの? …三浦君、喋ってばっかいないで プロジェクター動かしてみてよ」 「先輩、すぐ惚れちゃいそう、完璧王子に」 「仕事仲間には持たないよ、そういう感情」 崎田さんのことを思い出すと、 自然に口調が苦々しくなった。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6398人が本棚に入れています
本棚に追加