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「あの鉢合わせの時ですら、
紗衣は冷静だったよね。
無反応に、背中を向けて」
「…あの後泣いたよ、たくさん。
苦しくて、寂しかった…」
あの夜の苦みを思い出して、
目に涙が滲んだ。
それでも戸川君と出会えたあの夜は、今では大切な出会いの夜。
「私に感情がないだなんて、追いかけもしなかった崎田さんが知らないだけだよ」
携帯が鳴り止んだ。
…戸川君が帰ってしまう。
心の隅がチリチリと焦る。
でも今は過去と対峙しなきゃならない。
「戸川が配属されて顔を合わせた時、頭に血が上った。
僕達の二年間は、戸川が留学でいなかった二年間と重なってるから」
崎田さんは私から目を逸らして、
自嘲気味に言った。
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