嫉妬と煽情と初めての夜#1

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「紗衣がいつも僕に冷静だったのは、あいつのことがずっと好きだったからだと思った。 裏切られたのは僕の方だったと」 「違うよ。戸川君と初めて会ったのは、あの鉢合わせの夜だから」 嘘をついて傷つけることもできた。 でも、できなかった。 私達の二年間は実ることはなかったけれど、そこに本当の気持ちがなかった訳じゃない。 「崎田さんとの二年間、 私なりに真剣だった。 ずっと続いていくんだと信じてたよ…あの頃は」 “あの頃は”に込めた意味を理解したんだろう。 崎田さんは寂しそうに笑った。 「その言葉が聞けたから、もういいよ。 ……色々、ごめん。 別れる羽目に追い込まれて、 戸川も現れて、後悔ばかりだった」 崎田さんは最後に私の涙を切なそうに見つめてから、ゆっくりと玄関に向かった。
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